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名古屋高等裁判所 昭和48年(行コ)9号 判決

名古屋市中川区西古渡町二丁目二五番地

控訴人

福田賢之助

右訴訟代理人弁護士

加藤宗三

同市同区同町六丁目八番地

被控訴人

中川税務署長

水谷信之

右指定代理人

服部勝彦

伊藤賢一

岡部真美

鳥居巻吉

井上昇

右当事者間の所得税更正処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴人控訴代理人は、

「原判決を取り消す。

被控訴人が昭和四三年九月二六日付で、控訴人に対しなした

1  控訴人の昭和四〇年分所得税について、

総所得金額を、一、〇五〇万〇、六八七円とする更正処分のうち、一三一万四、五一〇円を超える部分および重加算税一二一万〇、五〇〇円の賦課決定処分

2  控訴人の昭和四一年分所得税について、総所得金額を、一、一三三万二、七二四円とする再更正処分のうち、一五五万九、四六八円を超える部分および重加算税一三一万三、四〇〇円の賦課決定処分

3  控訴人の昭和四二年分所得税について、総所得金額を九〇九万六、六一四円とする更正処分のうち、一七一万五、七一六円を超える部分および重加算税九三万九、三〇〇円の賦課決定処分

を、いずれも取り消す。

訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」

との判決を求め、被控訴人指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用、認否は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、右記載をここに引用する。

(控訴人の主張)

一、控訴人の昭和四二年分売上金額について、

1  控訴人の訴外石山木材株式会社への売上高は、八八万五、二二一円である。被控訴人は、これを九五万六、三一一円であると主張しているが、その差額七万一、〇九〇円は、被控訴人が昭和四一年末における売上げを、昭和四二年分売上げに加算したことによつて生じたものである。

2  控訴人の訴外木原造林株式会社への売上高は、一六万三、五八〇円である。被控訴人はこれを一八万七、〇〇〇円であると主張しているが、その差額二万三、四二〇円は、被控訴人が昭和四一年末における売上げを、昭和四二年分売上げに加算したことによつて生じたものである。

3  控訴人の訴外中日クリーナー工業株式会社への売上げは、全く存しない。被控訴人は四万〇、四二五円の売上げがあつたと主張しているが、右は昭和四一年末における売上げを、昭和四二年分売上げに計上したものにすぎない。

4  控訴人の訴外株式会社森平製材所への売上高は、三万四、五七一円である。被控訴人はこれを四万九、八七一円であると主張しているが、その差額一万五、三〇〇円は、昭和四一年末における売上げを、昭和四二年分売上げに加算したことによつて生じたものである。

5  控訴人の訴外山木材木店(旧商号大蔵材木店)への売上高は、一〇七万二、八〇二円である。被控訴人は、これを一一〇万一、八三八円であると主張しているが、その差額二万九、〇三六円は、昭和四一年末における売上げを、昭和四二年分売上げに加算したことによつて生じたものである。

6  控訴人の合資会社山城屋材木店への売上高は、四〇一万五、八五六円である。被控訴人は、これを四九八万四、〇五二円であると主張しているが、その差額九六万八、一九六円は、(イ)昭和四一年一二月二一日から同月二九日までの売上高九八万一、八二〇円、(ロ)同年一一月分売上高二万四、〇一九円を昭和四二年分売上高に加算し、他方(ハ)昭和四二年分売上げのうち三万七、六四三円の加算を脱漏したことにより生じたものである。

以上1ないし6における控訴人主張の売上高と被控訴人主張の売上高との差額の合計は、一一四万七、四六七円である。原審裁判所は昭和四二年分売上高合計を被控訴人の主張を超えて八、四一九万四、六七三円と認定したが、仮にこれを基準としても、これから右差額一一四万七、四六七円を減ずれば、右売上高合計は八、三〇四万七、二〇六円を超えることはないことになる。してみると、控訴人の昭和四二年分営業所得金額は八〇四万〇、七三七円を、同年分総所得金額は八五〇万六、〇四六円を、それぞれ超えることはないわけである。

しかるに、被控訴人がした更正処分にかかる総所得金額は九〇九万六、六一四円であるから、該更正処分は八五〇万六、〇四六円を超える部分につき違法であつて取消を免れない。

二、控訴人の昭和四二年分課税総所得金額および納付すべき所得税額について、

前項において主張したとおり、控訴人の昭和四二年分の総所得金額は八五〇万六、〇四六円であるから、これら争いのない所得控除額四七万七、五〇〇円を差引くと、課税総所得金額は八〇二万八、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切拾て)であり、これに対する所得税額は、三〇八万二、八〇〇円である。従つて、更正にかかる所得税額三三七万八、三〇〇円は、右を二九万五、五〇〇円を超える違法なものである。

三、昭和四二年分の重加算税の賦課決定処分について、

仮りに原審認定のごとく、控訴人が昭和四二年分売上金額中二八一万八、〇八〇円、不動産所得六六万七、九〇五円、仕入金額九九二万八、〇五七円合計一、三四一万四、〇四二円を仮装しまたは隠ぺいしたとするも、昭和四一年期末商品たな卸高二八五万五、二〇六円(被控訴人が仮装隠ぺいにかかる所得と主張するもの)が昭和四二年分の売上原価に算入されるから、前記合計額から、右金額を控除すると、仮装隠ぺい所得は一、〇五五万八、八三六円となるが、これは、総所得金額八五〇万六、〇四六円を超えるから、課税総所得金額中仮装隠ぺい分を控除した金額は、申告にかかる課税金額一三七万三、〇〇〇円によることとなる。そして、これに対する所得税額は二四万七、〇〇〇円であり、重加算税の計算の基礎となる所得税額は二八三万五、〇〇〇円である。従つて、重加算税額も八五万〇、五〇〇円を超えることはない。

よつて、被控訴人のなした重加算税額賦課処分は右金額を八万八、八〇〇円超えており、その限度において違法であつて取消を免れない。

(被控訴人の主張)

一、控訴人の右主張はすべて争う。控訴人の所得税申告事務を担当していた訴外比田庄三のいうところによれば、控訴人の帳簿はずさんで、税金の申告をする場合には、その計算に困つたし、控訴人に改善するように指導したが、改善されなかつたというのであり、また、当該帳簿の記帳を担当していた訴外福田洋子も、その事実を認め、さらに、大口取引先については、納品書や請求書を出さなくとも、取引先から銀行振込みで売上金の支払いを受けることもある旨述べている。このような不正確な帳簿等に基づく控訴人の主張は、到底正当と認めることができない。

1  甲第二〇号証の石山木材株式会社にかかる得意先帳と、被控訴人が右訴外会社に照会して得た取引額回答書(乙第一〇二号証)とを比較検討するに、三月分の金額は符合するが、他の月は符合せず、四月以降の取引にいたつては右得意先帳では不明である。

2  甲第二一号証の木原造林株式会社にかかる得意先帳においては、被控訴人が右訴外会社に照会して得た取引額回答書(乙第一一九号証)によると、六月以降も引続き取引があるにもかかわらず、その記帳がない。

3  甲第二二号証の中日クリーナー工業株式会社にかかる得意先帳においては、被控訴人が右訴外会社に照会して得た取引額回答書(乙第一三五号証)によると、四万〇、四二五円の売上金は昭和四二年二月九日現金で支払いを受けているのに、右得意先帳によれば、その入金は同年一月中にあつたものとされている。

4  甲第二五号証の株式会社森平製材所にかかる得意先帳においては、入金の状況は記帳がなく、かつ、四月以降の取引も全く記帳されていない(乙第一八四号証参照)。

5  山木材木店(旧商号大蔵材木店)については、その得意先帳はなく、控訴人は昭和四二年一月二〇日付請求書(甲第三〇号証の一ないし三)のみをもつて、同請求金額中に、昭和四一年中の売上げが二万九、〇三六円算入されていると主張するのであるが、被控訴人が右訴外会社に照会して得た取引額回答書(乙第一八八号証)によると、昭和四二年一月一日現在の未払残高はないとされている。仮に、控訴人主張のように、昭和四二年一月二〇日付請求額のうちに昭和四一年分の売上げが含まれているとするならば、右訴外会社の回答書の記載洩れと思われるが、そうであるとすれば、各年同程度の取引状態であつたことからみて、同回答書の昭和四二年一二月三一日現在の残高も記載洩れと考えられ、昭和四二年分の売上高計上洩れも相当数存在する筈である。

6  控訴人の訴外合資会社山城屋材木店にかかる得意先帳(甲第二六号証)には、売掛金の入金状況が明らかに記帳されておらず、取引にかかる原始記録や帳簿記録が不完全であることは、控訴人の会計担当者が前記のとおり自認するところであり、その不完全な記録の一部をもつて、当該売上金が昭和四一年の繰越分であると主張しても、右繰越分相当額の昭和四二年分記帳洩れ売上金がないとはいえないのである。一方、被控訴人は、右訴外会社の支払実績を調査確認して、昭和四二年の控訴人の右訴外会社への売掛金額を主張しているのであり、その売掛金は正当である。

二、右のとおり、控訴人の帳簿書類の記録は正確ではなく、その断片的な記録の一部によつては、被控訴人の主張をくつがえすことはできないのである。結局、控訴人主張の昭和四二年分営業所得、総所得金額および所得税額ならびに重加算税額は、いずれもその前提たる基礎が不正確であるから、是認されるいわれはなく、被控訴人の主張額が正当である。

(証拠関係)

控訴人訴訟代理人は、甲第二八、二九号証の各一、二、同第三〇号証の一ないし三、同第三一号証の一ないし一二、同第三二号証の一ないし五、同第三三号証の一、二、同第三四号証を提出し、当審証人福田洋子の証言を援用した。

被控訴人指定代理人は、右甲号証の成立はすべて知らないと述べた。

理由

当裁判所もまた、原審と同じく、控訴人の本訴請求はすべて失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正・補足するほか原判決理由の説示と同一であるから、右記載をここに引用する。

一、原判決理由三の1の(五三)中、判決書四二枚目裏五行目から六行目にかけて「三、二四三円」とあるのを「三、二四二円」と、同七行目から八行目にかけて「二五万七、三九五円(二六万〇、六三八円-三、二四三円)である。」とあるのを「二五万七、三九六円(二六万〇、六三八円-三、二四二円)を下らないものである。」と、同(五五)中判決書四三枚目表八行目に「二五〇円」とあるのを「二六〇円」と、それぞれ訂正する。

二、控訴人は、昭和四二年分売上金につき、売上先石山木材株式会社、木原造林株式会社、中日クリーナー工業株式会社、森平製材所、山木材木店、合資会社山城屋材木店に対する被控訴人主張の各売上高中には、昭和四一年中の売上高合計一一八万五、一一〇円が含まれており、他方、昭和四二年中の売上高計上洩れ三万七、六四三円があるから、差引一一四万七、四六七円が売上高として過大に計上されていると主張する。

しかしながら、当審証人福田洋子の証言により成立を認める甲第二八、二九号証の各一、二、同第三〇号証の一ないし三、同第三一号証の一ないし一二、同第三二号証の一ないし五、同第三三号証の各一、二、同第三四号証は、乙第一〇二号証、同第一一九号証、同第一三五号証、同第一八四号証、同第一八八号証、同第一九八号証(右乙号各証の成立については原判決理由参照。)に対比し、にわかに措信しがたい(甲第三四号証を除く前記甲号各証は、請求書、納品書等であるが、相手方たる取引先の承認・照合を経たものでもなく、必要とあれば、控訴人において任意作成しえないものでもないから、右乙号証の証明力を減殺するに足るものではない。また甲第三四号証は控訴人の帳簿であるが、控訴人の帳簿が不完全にしてにわかに信用すべからざるものであることは、原審証人比田庄三、当審証人福田洋子の各証言によりこれを窺うことを得べく、同号証によるも原判決の事実認定を左右するに足りない。)。他に原審の認定をくつがえすに足る新らたな証拠はない。

よつて、控訴人の右主張は失当であり、従つて、被控訴人のした昭和四二年分総所得金額を九〇九万六、六一四円とする更正処分が違法であるとの控訴人の主張もこれを肯認することができない。

三、次に、控訴人は、昭和四二年総所得金額が八五〇万六、〇四六円にすぎないことを前提として、同年分重加算税が八五万〇、五〇〇円を超えることはない旨主張するか、右前提事実が認められないことは上来の説示により明白であるから控訴人の右主張もまた失当である。よつて被控訴人のなした九三万九、三〇〇円の重加算税賦課処分は適法である。

右と同旨に出た原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本聖司 裁判官 川端浩 裁判官吉川清は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 宮本聖司)

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